月花話6




前回




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そしてずぃ、と俺に顔を近づける。


「おまえ、具合が悪いって云ってどれくらい休んだ?」
「え?」


聞かれた事に暫し考えてはみたものの、答えは俺の中では一つしかない。


「・・・どれくらい、と云われても・・・、ずっと休んでたぞ?」


とそう答えたら、「そうじゃなくてだなぁ〜」何てボヤきながらまたもや盛大に顔をしかめられる。


「じゃぁ何で、帝劇内のアチコチがキレイに片づいてるんだ」


ほとほと呆れた様な顔をしながらそう続けた加山のセリフに、漸く云わんとしている事に気付く。


「そんなにたいした事はしてないけど・・・」
「・・・見た限り、そんな感じじゃ無かったがな。それにそういう事じゃ無いだろう、大神ぃ〜?」
「そりゃ・・・、」


まるで子供を諭すような云われ方に居心地が悪くなる。反論しようと出かけた言葉は、結局途中で止まってしまった。そのまま何も云えずに黙り込んだ俺に、加山は小さく溜め息をついて視線を合わせるように屈み込む。


「休める時に休むのも立派な仕事の内だろう、大神」


先刻までのいつもの語尾を伸ばす独特の緩い口調から、一転改まった真摯な声で云われると居た堪れなさが一層募る。
やれることをやろう、と決めたのに、これじゃ空回りもイイ所だ。
視線を合わせる事に耐えられなくなり少し俯く。自分の不甲斐無さに目頭が熱くなる。泣きたい訳でも泣いた所でどうなる訳でも無いのに、冷静な思考とは別の所で瞳が濡れて来るのが抑えられない。咄嗟に起こしていた身体を背を丸め布団に顔を埋める事で、そんな今の自分の情け無い顔を加山の視線から隠す。


今、加山はこんな俺を見てどう思っているだろう。


何時も人当りが良く、人をくったような言動と態度をしてのらりくらりとしているように見えるが、実は人一倍責任感が強く、もの凄く曲がった事が嫌いで真っ直で実直な男だ。そんな奴が今の俺を見てどう思うか何て、考えるまでもない。


呆れているのだろう。
同じ隊長としてコレ以上情け無い姿は無いし。


そんな事を考えていたら不意に気配が動いたのを感じた。流石に呆れて部屋を後にするのだろうか。それもいいだろう。自分自身自己嫌悪がひどくて感情が収まらないから、一人になれるのは丁度良いだろう。


そう思って安堵のため息を小さく吐いた。